脳梗塞からの復帰

入院12日目 食事再開

昼の2時頃に叔母から電話がかかってきた。
「今日お父さんお昼食べてん」
「ええ?!食べたの?」
「うん、それでしばらくしてからな、体が痛いって言うて。それで最初の方は苦しそうにしててんけど、それがだんだん緩くなってきて、今は寝てるわ」

夕方五時に病院に行くと、ベッドに寝ている父は随分血色が良くなっていた。叔母は献身的に父の顔や足をお湯で濡らしたタオルで拭いていた。
「ほら、こうやって足を縦にするんよ。立ってる状態にして、間接が悪くならんようにリハビリするんやて。あと足の指も広げてやったらええ言うてたわ」
父の足の裏を押してLの字にして、また戻す。それを繰り返す。

「あと、アキレス腱もんだったらええらしいわ。アキレス腱揉んで、太もも揉んでやるとええねんて。昨日テレビでやってたのと同じみたい」
父が布団をはだけ手足を剥き出しにする。
「やって欲しいって言ってるわ。ほら」
顔を枕元に向けると、父が頷いている。しばらく足の裏をL字にしたり、足を揉んでやる。


5時55分頃に「患者様にお知らせいたします。これからお食事を配りに回ります」とアナウンスがあり、看護士が抹茶色のトレイに容器を二つと紙パックの牛乳を運んできた。わああ、食事来たよぉ、10日振りの食事に顔が自然と笑顔になる。父の顔は無表情のままだ。美味しそうなみそ汁の匂いが漂ってくる。

「ゆっくりゆっくりね」 無味乾燥な半透明のプラスチック容器には、どろっとした透明の液体が入っている。重湯を食べたと帰ってきた母が言っていたが、これがその重湯というやつかと思いながら、父が食べている(と言うか飲んでいる)のをじっと観察する。

重湯を飲み終わると、今度は味噌汁に取りかかった。「お味噌が底の方に溜まってるからスプーンでかき混ぜた方がいいかな」と叔母が言うと、父は頷いて、家から持ってきたスプーンで自分でかき混ぜて、口に付けた。

表情はない。唇の下がさっきの重湯で少し濡れたままだ。味噌汁が終わると、牛乳の紙パックに手を伸ばした。指で斜めについているストローの部分をがりがりする。
「ストロー開けて欲しいの?」と叔母が言い父が頷く。
最後に牛乳をストローでちゅうちゅうと飲んだ。

夕食後、腹が痛くなる。久しぶりの食事で体がビックリしたのではないだろうか。

主治医がやってくる。
動脈、心臓、共に異常なし、とのこと。