脳梗塞からの復帰

入院7日目 病室が変わる

病室が変わった。 ナースステーションの隣から、向かいの一般病室へ。JR福知山線の脱線事故で負傷した患者が向かいのベッドにいる。 咳が何度か出たと叔母が言っていた。

西日が強い。暑い?と聞くと首を縦に振る。
「扇子であおごか?」
いらんいらんと首を振る。
「遠慮せんでええねんで」
また同じように首を振る。
「遠慮の塊やなぁ」
そう言うとフフフフッと父はおかしそうに笑った。

「遠慮の塊やなぁ」は夕食時に僕がビールを勧められて断ったときに父から良く面白半分に言われていたセリフだ。まさか自分が言われることになるとは思ってもみなかったのだろう。元気だった頃の冗談を言ったり言い返したりの応酬を思い出して吹き出したのかもしれない。こんな形で言い返されるとは、と。脳梗塞で倒れて以来、初めて見た人間的、生活的な笑みだった。

容態は昨日と変わらず。頭が痛いらしい。
休憩室でテレビを見てると、サンテレビで脳梗塞の特集をやっていたが、時計を見ると6時25分でちょうど終わるところだった。血液が関係あるとか、食生活が重要だとか東海林のり子がまとめにかかっていた。

隣のお母さんはもういない。
病室を出たところが前にいた病室だから、歌声や話し声が聞こえるかと思ったけれど、聞こえてこない。別の病室に移されたのだろうか。 父のベッドがあった場所にはぽっかりと空間が空いていた。娘さんはどうなったんだろう。気になる。

夜が更けてくる。夜景が綺麗だ。
飛行船がビルをかすめて南へゆっくりと飛んでいる。