脳梗塞からの復帰

入院4日目 ジャンケンが出来る状態に回復

お昼頃、勤めていた会社の同期の会の4人が、お見舞いに来る。 何でも父が幹事を務めていて、ホテルの予約を取ったり美味しい料理屋を探したりしていたそうだ。3月に会を開いたときは、いつもは良く酒を飲む父がほとんど飲んでいなかったらしい。

今日は午後5時から付き添い。昨日と特に変わった様子はなし。雨が降っている。

今日は父にグーチョキパーをやって貰った。強く握って、ゆるめて、と言うと、ちゃんとそうする。入院1日目よりも手を握る力が弱いのが気になるが、やっぱり照れか、それとも点滴治療で体力が落ちているのか。寝返りを打って横になる。背中痛い?と聞くとうぅ、と頷く。頭痛いの?と言うとやっぱり頷く。

「痛いの?そう?」
「そー、そー」と弱々しい声で答える。
背中をさすったり、扇子で扇いだりする。扇子で扇いでいると、嫌そうな顔をして手を払うので、止める。

看護婦が来たときに、喉が渇いているから濡れた綿で口の周りを拭いてもいいかと尋ねたら、それだと余計乾いてしまうので、薬用リップがいいと言った。代わりに消毒液で濡らした綿を持ってきて貰った。看護婦さんが自分の指に巻いて、口の中に入れて、と指図する。 「噛んじゃやーよ」とおどけて言う。

父は口には入れずに、短く伸びた髭を指で擦る。看護婦が口の中に入れて指歯磨きをする。父の指に巻いて口の中に入れてみてと指図したが、やっぱり口の周りの髭を擦る。ようやく自分で口の中に濡れた脱脂綿を入れて乾かしていた。舌が白かった。

7時55分になったので「じゃあそろそろ帰るね」と言う。
「明日はいっぱい来てくれるって」
父はぼーっとしている。
「じゃあまた明日ね」
そういうと、父は何かを言いたげに手を僕の方に伸ばして
「そー、そー」と喋った。そういえば昨日は喋ってない。
「え?ソース?」と聞くと、父は首を振る。
「書類?」

昨日母がそういうと頷いたのを思い出しておそるおそる聞いてみる。しかしやはり首を振る。ちょっと安心した。書類の話はこりごりだし、父にも忘れてゆっくりして貰いたい。

「あした」と言う言葉に反応するようだ。 あした、と聞くと、何か凄く不安そうな表情をする。仕事をしていた時のことが頭に残っているのだろうかと推測するが分からない。

父が何かを言いたげに僕を指さす。
「そー。・・・・・・そー」
父はもう僕の方は見ていないうつろな目で、物悲しげな顔で言う。